マニラ首都圏では封鎖8週目に入り、検問所を突破しようとした男が警察に殺害され、ドゥテルテ大統領に批判的な意見をソーシャルメディアに投稿したネチズンが取り締まりの対象となった。公衆衛生上の緊急事態において、政府が鉄拳を示した形だ。

第二次世界大戦以来最悪の世界的危機に際し、私たちはフィリピンにおいて、ドゥテルテの権威主義的支配とパンデミックという2つの災いに直面している。

現場で何が起きているのかをお伝えしたい。

先月、警察が元兵士のウィンストン・ラゴスを射殺した。ラゴスは精神疾患を患っており、このことが理由で彼は陸軍を去っていた。

ドゥテルテ大統領が警察と軍に検疫違反者を殺害するよう命じた直後に、この殺人が起こった。ドゥテルテは、以前に路上で抗議し、食糧援助を求めたケソン市の貧しい住民に怒りをぶつけて「彼らを撃ち殺せ」と言った。彼らの何人かは拘留されたが、最終的に保釈された。

地域の給食プログラムのボランティアでさえ、行政の助けを求めるプラカードを持っていたために逮捕された。幸運だったのは、ケソン市長が警察の「過剰反応」だとして彼らの釈放を命じたことである。さらに市長は、表現の自由によって保護されているのだから、彼らには不満を表明する権利があると述べた。

全体としては、すでに4万人近くが封鎖に違反して逮捕されており、そのほとんどが午後8時から午前5時までの外出禁止時間に家を出ているところを捕らえられた。そのうち少なくとも6,000人に罰金が科せられている。

 

ネチズンへの取り締まり

パンデミックへの政府の対応に対して不利なメッセージをソーシャルメディアに投稿する市民に対しても、政府は熱狂的な魔女狩りを行っている。

先日のメーデーには、ソーシャルメディアにスローガンを投稿してオンライン抗議を行った労働者のリーダー4名を含む人々が相次いで逮捕された。

さらに際立った2つの事件が、世間を震撼させている。アーティスト1名の逮捕と、台湾のフィリピン人海外労働者1名を国外追放させるという脅迫である。

  • セブ市在住の映画作家が、自分の街が「全太陽系における[コロナウィルスの]震源地」になっていると風刺したメッセージをフェイスブックに投稿した後、令状なしで逮捕された(Macasero 2020)。彼女は後に釈放された。
  • 台湾では、フィリピン共和国大使館の労働担当官が、あるフィリピン人介護士の雇用主に対して彼女を国外退去させるよう求めた。理由はドゥテルテ大統領に対して「ソーシャルメディア上でその信用を失墜させ、誹謗中傷しようとし」(Gotinga 2020)、「政府を不安定化させ」、「世界的な医療保健の危機の中で憎悪を引き起こした」というものだったが、台湾政府はこれを拒否し、フィリピン人介護士は台湾人と同じ権利を享受しており、とりわけ自由に発言する権利があると述べた。

これまでに、「公序良俗を危険に晒したり、国家の利益や信用を損なう可能性のある虚偽のニュース」を公表したことを処罰する旧法に基づき、少なくとも17名が国家捜査局に召喚されている(Buan 2020a, 2020b)。

これとは別に、最近可決された法律は、緊急事態に対処するための特別な権限をドゥテルテに与え、「ソーシャルメディアや他のプラットフォーム上で、コロナウィルスの危機に関する虚偽の情報」を広めた人々を政府が追跡できるように歯止めを外した(Buan 2020c)。

非常に皮肉なのは、ドゥテルテ自身がコロナウィルスに関する誤った主張の出所にほかならないという事実である。とりわけ彼は2月に、ウィルスは「ワクチンがなくても自然死する」と述べ、さらにHIVと比較した(Rappler, 8 April 2020)。

 

何よりもまずは公序良俗

ドゥテルテ大統領は、麻薬使用疑惑のある人たちを見るのと同じように、公衆衛生の危機に臨んでも公の秩序という単一のレンズを通して見ている。ラップラーの記者ランボ・タラボンとジョデス・ガビランが書いたように、「フィリピンはいまだ麻薬撲滅戦争の青写真から抜け出せない。封鎖中に報告された人権侵害は、2016年に激しい麻薬撲滅戦争が開始されて以来この国を支配してきた「殺人を冒しても免責される文化」(culture of impunity)に起因している」(Talabong and Gavilan 2020)。

実際、法の支配は著しく弱体化している。世界正義プロジェクト(WJP)の2020年法の支配指数は、128カ国中91位にフィリピンをランク付けし、一貫してマイナスの傾向を示した。WJPによると、「過去5年間で平均年率の低下が最も大きかった国」にフィリピンが含まれている(WJP 2020)。

公式の数字が示しているように、少なくとも5,500人が殺害された麻薬に対する暴力的な戦争をドゥテルテが開始したときに、法による支配の崩壊は始まった。人権団体は、殺害数は12,000~20,000人にのぼり、ほとんどが貧しい容疑者を標的にしていると推定する(BBC 2019)。

ドゥテルテは反対意見を許さない。ドゥテルテに対する急先鋒の批判者であったレイラ・デ・リマ上院議員を、でっち上げた容疑で刑務所に送り込んだ。さらに彼は独立系メディア、人権派弁護士、そして大統領に友好的でないと見られる大企業を脅した。(権力の)抑制と均衡は、大統領による裁判所と立法府の支配によって侵食されている。

フィリピンは最近、国際社会の注目を集めた。ミシェル・バチェレ国連人権高等弁務官は、各国に対し、「例外的であるとして、または緊急措置を装って」基本的人権を侵害することを控えるよう呼びかけた(Rappler, 28 April 2020)。彼女は声明の中で、「緊急事態における権限は、政府が反対意見を鎮圧し、人々を支配し、さらには権力の座にいる時間を永続させるために、政府が振り回す武器であってはならない」と警告した(Rappler, 28 April 2020)。

バチェレはさらに、「夜間外出禁止令を破ったために政府がその者を射殺、拘留、または虐待することは、明らかに容認できない違法な対応である」と述べた(Rappler, 28 April 2020)。

もう一度言おう。用心することがこの国に必要なことである。この危険なウィルスから自分たち自身を守るように、私たちの脆弱な民主主義を守る必要がある。

 

2020年11月4日 公開 (2020年5月21日 脱稿)

翻訳 芹澤隆道および京都大学東南アジア地域研究研究所

 

参考文献

 

マリテス・ダンギラン・ヴィトゥグ(Marites Dañguilan Vitug): ラップラー記者。30年以上にわたって活動するフィリピンで最も経験豊富なジャーナリストの一人。またベストセラー作家として、フィリピンの時事問題について8冊の本を著している。彼女の最新刊Rock Solid: How the Philippines Won Its Maritime Dispute Against China Sea(硬い岩──フィリピンはどのようにしてシナ海に対する海洋紛争に勝ったか)(NUS Press, 2018)は、2019年のフィリピン国民図書賞を受賞した。司法、政治、政府、安全保障に関するルポルタージュに定評がある。ニューヨーク・タイムズ紙が「勇気とパンチが効いている」と評した先駆的な政治雑誌『ニューズブレイク』の元編集者であり、現在はラップラーの記者を務めている。
Marites D. Vitug @maritesdvitug

 

Citation

マリテス・ダンギラン・ヴィトゥグ(2020)「パンデミックのただ中で、殺人、逮捕、そして自由の取り締まりについて」CSEAS Newsletter 4: TBC.